留鎮陸上るてんむじょう
  まことの死が訪れるのはいつか   まだ 終わりを見る事は叶わじ     御自らから立ち上がり 御簾みすから出た不屈の主上しゅしょう     余程の愚か者か英傑か     唯一つ この正成とのえにしが認められた     それだけは確かなこと   霊夢は告ぐ   南の木が許にある座主が名を     果ては決まっていた筈だ     藍よりずる青の如し それ・・は怨恨の土壌を耕した     望まれるのであらば 行き着く果てまで往ってみせましょうか     目指すは岐路無き一つの道   聖運しょううんひらけども徳は従わず    故にささやかな抵抗を示す     非理法権天ひりほうごんてんいえども     あめよりも天下あめがしたの万民の倖せの方が大切だ      それを守護するまもる為ならば 何だって遣り遂げてみせよう     それが、それが己の生き方だ   涯分量らざるに似たりといえど   それが為に命あやうきを忘るる     強要するつもりもなくば 負け戦をするつもりもなかった     しかれども どうのしようのない時は 本当にどうのしようもないものだ     今ここで 我等が生き様をとくと見せつけてやろう     しからば 敗軍の将よ――残るつわものが士気を上げてみせよ!!   しかしてしい出よ   おの矜持きょうじを掛けた戦いを     罪深き悪念にもる誓願 口にするのもはばかれる言葉     だから お前に問うたのだよ     ――そして 思い同じと知って安堵する自分を認めた     結局、私は最期まで 卑怯者のままであったな・・・・・・   六道りくどう廻りしもしかとその思いを持つならば   再び巡り逢ひもするであろうな     互いの血潮をまとう今わのきわに重ねられた手     霞みゆく視界を占める表情かお     ・・・・あぁ、来世も共に、な     残る力でお前のその色無き指先を握る   現世げんぜなぞも後悔などしようか   いざかしむ世へ・・・・・・     多生曠劫たしょうこうごうの間を再び漂う     他生でえにしを結ぶこともあるやも知れぬ     願わくば それが太平の世であらんことを     そしてその時まで その思いが消えていれば、と祈る     もう、・・・・どうか、自由に――  


--------------------------------------------------------------------------------  楠正成視点。  後半は楠正成→楠正季(『Samsara』の対)  「留鎮陸上」は「いつまでも地上に留まり続ける」の意。